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深情不悔

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しい理屈より

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しい理屈より


 宗之助は、だんだん要領を身につけてきた。毒とハサミは使いようだ。
 しかし、平凡な毎日。家臣の家族たちの、せきがとまらぬとか、犬にかまれたとかの手当てをし、まじないをくりかえす。実費はもらう。しかし、そう大金を請求するわけにいかず、金額はしれ

ていた。
 もっと派手なことをやりたいものだ。宗之助は武芸をやらず、内心のもやもやの発散することがなく、それは妙な空想となる。
 そもそも、医師のありがたみなるものを、みなが知らないのがよくない。ありがたみを示さなければならない。戦乱の世となればいいのだが、それは期待できない。医師への信用と需要とをかき

たてる、なにかいい方法はないものか。
 考えてたどりついたのは、例の毒の薬草。
 宗之助が目をつけたのは、藩内の大波屋という商人。海運業をやっており、金まわりは悪くなく、藩にも金を貸している。その見返りとして、苗字帯刀を許されている。
 宗之助は茶店の主人にたのみ、お茶にまぜて大波屋に飲ませることに成功した。あの人は病気のようだ、これを飲ませてあげなさいと言うことは、医師として不自然でない。
 二日ほどし、大波屋を訪れ、薬草の注文を江戸へとりついでくれないかと言う。応対に出た番頭が言う。
「じつは、主人が病気になりまして、苦しんでおります。みていただけるとありがたいのですが」
「いいですとも。こちらのご主人は、苗字帯刀を許されている。家臣と同格です。手当てしてさしあげましょう……」
 部屋に通り、横たわっている主人に言う。
「……ははあ、頭が痛く熱っぽいのでしょう」
「はい。よくおわかりですね。驚きました。なおるものでしょうか」
「金まわりがいいと、木火土金水の五行のつりあいが狂い、からだにそれがあらわれるのです。火、すなわち熱が出る。むずかしいですが、できるだけのことをやってあげましょう。土の精の産物

である薬草を、水にとき、木製の容器で飲まねばならぬ」
「ぜひ、お助け下さい。お礼はいくらでもお払いします。むずか、早く手当てを……」
「わかっています」
 宗之助は父から教わった例の薬草の根の部分をせんじ、もっともらしく飲ませる。翌日、当然のことながら、症状は消える。
 あまりのあざやかさに、大波屋の主人は感嘆する。宗之助をまねいて、全快祝いのごちそうをした上、多額の金銭をさし出す。
「これを受けとっていただきたい」
「ずいぶんありますな。しかし、わたし母乳餵哺はお城から禄をいただいており、生活はなんとかなる。そこでです、じつはわたしに、ひとつの計画がある。この金は、それに使っていただきたい」
「どんなご計画で……」
「お城にはわたしのほかに、あと二人の医師がいるだけ。わが藩に三名というわけです。しかし、家臣はまだいい。領民たちは、医師にかかることができないでいる。小さな診察所を作り、わたし

がひまな時には、そこで手当てしてあげようというのです」
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